最近、私は哲学に関するいくつかのオープンチャットに参加している。そこではさまざまに議論が繰り広げられるのだが、時折、喧嘩も見受けられる。しかし、大抵は管理者や発言力のある人が間に入って仲裁に入り、なんとか収まることが多い。
このように、対立が起これば、常に誰かが間に入り、調停がなされる。対話とは常に政治的であり、やはり人間は政治的動物とも言えるのだ。
政治的とは、現実的な力関係につながる事柄を言う。それが正しいことかどうかはともかく現実に作用することなのである。そのため、真理という言葉のもとに嘘が語られるのも許容される。その部分が哲学と反りが合わないと言われる所以だろう。
先日の都知事選での選挙ポスターこそまさにその現れか。選挙ポスターでは、マニュフェストや政治思想の中身とは関係のないビジュアル面が強調されることが多い。その意味では、新聞の時代から、映像の時代となり、政治はさらに政治的になった。
哲学的とは、それらを抽象化した言語に固有の領域にて語られ、真理の名において語られていく。故に、対立は調停され得ない。
調停されてしまったら、思考の純粋性を失う。喩え「真理」などないと主張する哲学があれども、それは「真理などない」という真理なのだから。
ドゥルーズが議論しないのは、思考の純粋性を失わないためかもしれない。
政治性と哲学性の度合い
ソクラテスは哲学的であったから、純粋に導き出した答えにより、罰を受け入れ、自害した。この純粋性。
しかし、哲学的と政治的、これらは程度の問題でもあるのだろう。
カント哲学はどちらかというと哲学的で、ヘーゲル哲学はどちらかというと政治的。
しかし、ヘーゲルとマルクスとを比べると、ヘーゲルは哲学的であり、マルクスは政治的だろう。
マルクスとレーニンとを比べると、マルクスは哲学的であり、レーニンは政治的だろう。
しかしながら、このようなイメージのついた「政治的」という言葉は、古代ギリシャにおいてはおそらく違っていたのだろうと思われる。
アリストテレスとハイデガーそしてヒトラー
アリストテレスは、「政治学(ポリティケ)」にて「人間はポリス的動物だ」と言ったが、このポリス的とは「社会的」とも「政治的」とも「国家社会的」言われ、意味合いも、異なっている。
彼にとっては最高善を目指して自分自身の徳としての卓越性を実践することと物事を眺め真理を認識していく観想とを(国家全体を考慮しつつ)行うことが政治的なのだから。政治形態も最高善を目指すためのひとつの手段に他ならない。
ところで、ハイデガーは現存在の前に立ち現れる存在者を「事物的」存在者と「道具的」存在者とに分けていた。
事物的な在り方とは、対象から離れて見るということで観察対象として存在を把握することである。
道具的な在り方とは、対象が私の手元にあって実際にそれを使ったりすることで存在を把握していることである。
ハイデガーはこの事物的な在り方をデカルト以降の近代の偏向的な存在の捉え方だとして批判していた。
しかし、対象の純粋性を保ち、自己とある種の距離を保った事物的な在り方は、それを他人たる共現存在への態度とすると、先の文脈からして哲学的と言えよう。
道具的な在り方は、それを共現存在への態度にすると、ある種、相手への作用という意味では政治的でもある。
ひょっとすると、ハイデガーの事物的な在り方への批判とは、古代ギリシャの政治的で哲学的な在り方へと還ろうとしていたようにも思える。
ここで、ハイデガーはナチスを支持した講演を行ったとかで批判されていたことを思い出すが、これが先ほど説明した彼自身の哲学とは無関係でない可能性がある。
実は、アメリカの哲学者デューイが「ドイツ哲学と政治」にて指摘していたのだが、
デューイは、ナチズムをヒトラー・ドイツの一元的世界として捉えていた。
いくつか下に引用する。
"理想主義的信仰の再生こそ第一に必要、と考えたのである。"
"ヒトラーのいわゆる理想主義的民族社会の顕著な特質は、その統合が窮極的には血と人種に由来すると言うことである。"
「統一的なWeltanschauungの欠如こそ、ドイツの敗北の原因である。」
「全事態の責任は、誰であろう、ドイツ人自身にあったのだ、と。」
「物質的ないし経済的関心にのみ依存していたのでは、そこからこそ統一的世界観が生まれ、ひいては力が生み出すべき、当の内的精神は消失するばかりである。」
こうしたヒトラーの発言が、それまで民衆の主たる関心があるとされた物質的ないし経済的関心に重きを置いていたドイツの他の政党に対して、差をつけ、ドイツ国民の心を惹いたのではないだろうか?
それは多分に哲学的であり、そこがまた、政治的だったのである。ある意味では真善美がひとつのものであり、哲学的であることが政治的でもありうるようなアリストテレスの思想にも近いものとも解しうるのである。
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