2010年6月20日日曜日

掃除

深夜コンビニのバイトで掃除をしていてふと思った。
確かあれは母親がしてくれた話だっけ、
在るところに5人の兄弟がいて、彼らは皆、立派なお坊さんを目指して仏門に入った。上の4人はバリバリ勉強して立派なお坊さんになったが、末っ子はできが悪く怠け者で、周りからもあきられていた。師は言った。「おまえはしかたがないから毎日掃除でもしていなさい。ただし、床を磨くときは心を磨くつもりで、磨きなさい。」その末っ子は、やがて精進し、立派なお坊さんになったという話だ。怠け者の僕もその話を思い出すと、しっかり掃除しようと思うのだった。

あるとき、僕は或る人に傷付けられた。そしてその晩はコンビニのバイトだった。

黒い吐き気

大鴉がいる
私はそれをみた
サッ・・・
突如、わけのわからない不安が襲う
教室にはたくさんの人々
生徒二人は前でプレゼンテーションをしている
しかし、私は見た
窓の外に大鴉を
 ばたり ばたり
「・・。」
私にはやらなければならないこと、やりたいことがたくさんある
しかし、それらは頭の中をぐるりぐるりとのたくりまわし
私を押し潰そうとする
ピキッという音がした
私が押し潰された瞬間だ
「無い」が生まれた瞬間だ
そして私はそれを見た
真っ黒な大鴉が
真っ黒な大鴉が
そこにとまっている
「・・・・。」
私以外は誰も気づかない
そいつは私の心の穴に
首を突っ込み
中にいる生まれたばかりのひなに
虫を与える・・ウジ虫を
心がひなの糞で埋まっていく
底が臭く腐っていく
ああ厭だ
「・・・・・・。」
だが私は黙っている
大鴉がせっせとウジ虫をひなに与えるのを
私はただそれが来るのを待つしかないのだ
闇が来るのを
闇が全てを飲み込むのを
闇が無でさえ飲み込むのを
ひながなきわめいている
ひぎやあひぎやあひぎやあひぎやあ
「・・・・・・・・・・・・・・う・・っ・・・。」

2010年6月14日月曜日

黒きコロッケの悩み

父が材料を買い母がそれを料理した
「あら失敗」真っ黒コロッケが誕生した
真っ黒コロッケはぼくに「まずそうだ」と言われる
真っ黒コロッケは「自分はまずそうなのか」と自問する
答えは見つからない。コロッケは不安でたまらない
真っ黒コロッケは妹に「捨てたほうがましだ」と言われる
真っ黒コロッケは「自分はいないほうがましなのか」と自問する
答えは見つからない。コロッケは不安でたまらない
真っ黒コロッケは弟に「おはぎみたいだ。はっはっはっは」と笑われる
真っ黒コロッケは「自分はそんなにこっけいなのか」と自問する
答えは見つからない。コロッケは不安でたまらない。
真っ黒コロッケは父にちらりと一瞥を向けられると、その後は無視される
真っ黒コロッケはいよいよ不安で死にそうになる
死にそうになりながらもやはり自分の姿を見たいと思う
父はコーヒーをいれ、コップに注ぐ
真っ黒コロッケはそらとばかりにのぞきこむ
だが何も見えない。コロッケはやはり不安で不安でたまらない
弟に写真を撮られる。コロッケはそらとばかり写真をのぞくが
ピンボケしていてよく分からない。
父が立ち上がり、コロッケを台所へ皿で運んだ。台所の少し濁った生臭い水にコロッケは自分の姿を見て思った。「なんてまずそうなんだろう。なんてこっけいなんだろう。」そして恥ずかしさのあまり「捨てられた方がましだ」と思った。思いは父に通じたらしく、父はコロッケをゴミ箱の上へ、まさに捨てられようとしたそのとき。
「それ捨てないで、食べるから」 母だった。「だって焦げてるよ。」
「外側は真っ黒でまずそうだけど中身は他のコロッケと同じでおいしいから」
コロッケは救われた。「たとえ見かけが悪くても僕の中身はおいしいんだ。」
母は包丁でコロッケを真っ二つにすると、中身をスプーンでほじくり口に入れた。
「・・まずっ!」
だが、そのときすでにコロッケの息は絶えていた。
これ、幸か不幸か
(2010、1月)

青い夜

夜になって雨がやんだ
ふと足をとめ、時をとめる
家路の途中、静かな夜
午前2時ごろ、暗い夜
だが決してまっくらではない夜

青い夜

電燈が一つ二つ三つ四つ
ずっと向こうまで並んで
その美しさにわたしは思わず時をとめた
雨がやんだ後だから
うすぼんやりと光って
あたりは霧がかかっている。

アスファルトの表面のキラキラ光る水滴
もう少し遠くで静かにチカチカ光る信号
道の向こう側のしずまりかえったマンション
こちら側の公園の微かに揺れるブランコ
人一人いない美しい夜
すべてぼくのものにしてしまいたい

そんな美しい夜
雨はやみ僕は病む
心にたまった水たまりの中に
あの人をうかべていた

雲に浮かんだあの月もぬれている

そしてぼくは墜ちつづける

穴の中に墜ちた
くらいくらい穴の中に
ひとり独り絶望の中
こんなときこそおもいっきり笑ってみよう
なにもかも わすれてしまうほど...
光がみつかるかもしれないから

穴の中に墜ちた
深い深い穴の中に
寒い寒い絶望の中
こんなときこそおもいっきり泣いてみよう
なぜ泣くのか わすれてしまうほど...
その穴が反対側に続いているかもしれないから

貴女(アナタ)の心(ナカ)に墜ちた
キラキラ輝く貴女の心に
それはまばゆい太陽の光
そんなときはおもいきって抱いてみる
でもそっと包み込むようにね
夢が醒めてしまうといけないから

そしてぼくは墜ちつづける

ねむれない ねむい よる

ねむってはいけないときには、ねむってしまうのに
ねむりたいときには、ねむれない
そんなときの 空白... 空白... 空白...
ふいに虚無が襲ってくる。わけもなく...
眠りへいざなう虚無は心地がよい
眠らせない虚無は心苦しい
何もない空虚な宇宙
それでいて、ものすごく大量につまっている宇宙
地球上のひとりひとりがそんな宇宙をかかえているのだ―
だから幸福なのだ―だから不幸なのだ―
さびしく笑って しあわせに泣く
なぜ?何に対して?
               ...なんにも

孤独であって孤独でないそういうのが人間だ
何もない空虚な宇宙
それでいて、ものすごく大量につまっている宇宙
広すぎる宇宙は狭すぎたんだ
大宇宙のひとつひとつが また、そんな宇宙をかかえているのだ
ぼくには重すぎる

眠りへいざなう虚無は心地がよい
意識まではが虚無化していく
透明な虚無..
重すぎる宇宙は軽すぎた
もう何も感じない
ぼくの 存 在 すら...
きみの 存 在 さえ...
お・や・す・み