「俺は神の子かもしれない」
無表情で、シュールギャグをかますシバさん。
「カミノコ?何かノコギリみたい」
「人間に命を与えるなんて、神は絶対サディストだ」
「マリア様はMだった?」
もちろん、シバさんは呟いてまたラックに向き直った。
金原ひとみ『蛇にピアス』p47
アマがアマデウスでシバさんが神の子なら私はただの一般人で構わない。ただ、とにかく陽の光の届かない、アンダーグラウンドの住人でいたい。子供の笑い声や愛のセレナーデが届かない場所はないのだろうか。
(中略)
私はアマの寝顔を眺めながらビールを飲んだ。私がシバさんとセックスした事を知ったらアマはあの薄汚い男にしたように、私をたこ殴りにするだろうか。どちらかと言えば、私はアマデウスより神の子に殺されたい。でもきっと、神の子は人を殺さない。p49
大丈夫、大丈夫だってば……。私は自分に言い聞かせた。舌ピをした。刺青が完成して、スプリットタンが完成したら、私はその時何を思うだろう。普通に生活していれば、恐らく一生変わらないはずの物を、自ら進んで変えるという事。それは神に背いているとも、自我を信じているともとれる。私はずっと何も持たず何も気にせず何も咎めずに生きてきた。きっと私の未来にも、刺青にも、スプリットタンにも、意味なんてない。p80
全体の印象として主人公の女性であるルイが同棲しているスプリットタンの男アマに対して抱いている感情がだんだん観念的になっていき、アマの友人でルイのセフレであるシバに対する感情の方がリアルな気がする。ルイのアマに対しての感情はアンダーグラウンドな世界への憧れから、アマは自分の物という意識への変移かもしれないと思わせられる。もしそうなら、この話は彼女がアマへの不安定な感情を捨てて現実へ戻ろうとする話として読み解く事が出来る。
聖書で読み解くなら、この話はエデンの園から追放され、アンダーグラウンドの世界へといざなわれるという話にも解釈できる。蛇の舌をしたアマは蛇であり、シバは神の子であるアダムであり、ルイはもちろんイブである。アマがルイを誘惑し、シバに会わせ、ルイはシバを誘惑するのである。
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