その猫は、ケガをしていた。
その猫は片目だった。
片方が潰れていた。
その猫はしっぽが短かった。
しっぽは切れていた。
その猫はニャアと鳴かなかった。
その猫は私を見上げた。
その猫は悲しそうな眼で見上げた。
その猫に近づこうとする僕を
その猫は拒絶した。
その猫はスキマを抜け去った。
その猫は僕のココロのスキマを抜けて行った。
つかの間だった。
あの看板を見たからだった。
「東海大地震緊急避難経路」
東海大地震…
私は何をしているのだ?
私はなぜ東京へ行くのか?
その猫は?
その猫は一体、なぜ私の前に存在したのだろうか。
今となってはその猫も猫の鳴かなかった鳴き声も、同じことだ。
ただ一言二言言葉だけが残った。
「コワイ」「イタイタシイ」
ニャアという鳴き声も残らなかった。
東海大地震をイキノコレルのだろうか?
不況の競争社会をイキノコレルのだろうか?
イキノコった私はあの猫のように傷を負っているのだろうか?
イキノコレルイキノコレルイキノコレル
ニャア…
ニャア…
本当のところ、猫は鳴きたかった。
もういいよ…
ニャアニャアニャアニャアニャアニャアニャアニャアニャアニャアニャアニャアニャアニャアニャア
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