そのとき、やっとぼくに恐怖がきた。それは山口という一人の他人には無縁な、ぼくだけの恐怖だった。いわばぼく自身の生命を、最後までぼく一人の手で始末せねばならないという、冷厳で絶対的な人間のさだめへの恐怖だった。
『煙突』山川方夫『夏の葬列』集英社より
サルトルは正反対のことを言っていた。
むしろ、死は突然、何の前触れもなく、私から全てを奪う。
死は絶対的な他者である。
私が私の命の始末をする前に、私からすべてを取り去りうるのだ。
ところが、死が巧妙に隠蔽される現代においては、基本的には自分は国家によって生きながらえさせられるように思わされる。
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