実存 Existentia とは本質 Essentia と対立する言葉で、
本質とは「〜はーである」というようなその事物の本質を述語づける定義のようなものです。
一方、実存とは「〜は現にそこにある」というような事柄です。
「ユニコーンは角がひとつだけある馬である」によってユニコーンの本質は示されますが、現にユニコーンは存在していないので本質はあっても、実存していないと言えます。
「〜は現にそこにある」というのはそれの本質がわからなくても、とにかく「ある」と示せるがために、実存は本質に還元され得ない、還元しようとしても溢れてしまうと言います。
その差異を最初にカントが「存在する」という述語は本質という性質によって還元され得ないと指摘したのを、
シェリングがさらに本質と実存という言葉で明確に区別し、それをキルケゴールが採用して実存主義として打ち立て始めたのが実存主義の成立に歴史です。
「現にそこにあるもの」はまずもって私自身に立ち現れてくるもの、つまり現象なので、現象学とセットで勉強されやすくはあります。また、「私」という言葉とセットになりやすいため、主体や行動などともセットにされやすくはあります。(ただし、そうした主体的なものを否定するような考えもありますが。)
なので、現象学や自由な主体といったものとともに解説されることも多いです。
また、よく「高校倫理」では、キルケゴール、ハイデガー、ヤスパース、ニーチェ、サルトルが実存主義者として紹介されたりしますが、ハイデガーとニーチェは自分は実存主義者だとは思っていなかったようです。
文学に関して
カフカ以前、文学においてはほとんどが登場人物の来歴や生きた時代を説明してから、あるいは前提して始まるものがほとんどでした。しかし、カフカをはじめとする実存主義的な文学では、唐突に始まります。
「ある日グレゴールザムザは悪い夢から目覚めると自分が1匹の毒虫になっているのを発見した」「変身」
グレゴール・ザムザなる人物が何者なのか説明されず、突然、始まるのです。
また、実存主義というのが、とにかく「まず現にある」というところから始まるがため、その不条理さを強調することが多いです。
世界に投げ入れられている。それをハイデガーは被投性と呼びました。
「なぜ私は(日本人として2020年に20歳として今おり、彼女がおらず成績も芳しくない大学生という現在に至る過去を持った者として)今現にここにいるのか」
あるいは「なぜ私は安部火韻としてここにいて、モーツァルトとしてここにいないのか?」
今が18世紀で、ここがウィーンで、現に今ここにいるこの私こそがモーツァルトであってもいいはずなのに、なぜそうではないのか?現にいるこの私である事を現にいるこの世界を現にいるこの親を私は選んだ覚えはない。それこそ不条理としか言いようもないことです。
それは生まれた時というわけではなく、いつでもとにかく気がついた時に始まります。
そうして、今現にそのようにある状態を望んでいてそうなっているということよりも、望んでもないのにいつのまにかそうなっていたと感じる人は多いために、不条理と関連づけられて話されることが多いのです。
だから、突然選択したわけでも望んだわけでもないのに毒虫としているところから始まる文学は実存主義的と言えるのです。
しかし、そこから始まる物語の展開はなんでしょうか?
未来はとにかくまだ何もないのです。次の瞬間何が起こるかわからない。この中で私はいかにして生きるべきかなんらこれを選択するべき指針もありません。広大な自由が広がっているだけ。
キルケゴールは言います「不安とは自由のめまいである」と述べました。
不安を感じるものの、何か行為を選択し、世界に向かって投げかけるしかありません。今度は世界に向かって私自身を投げ入れます。これをハイデガーは企投と呼びました。(厳密にハイデガーに即せば「主体」や「私」という語は誤解を招くため、「私の行為」とは言いませんが)
不安とは、キルケゴールの場合には信仰へと向かうためのキリスト教的な罪の不安、ハイデガーにとっては自分の本来性に気がつくきっかけになる死への不安、サルトルの場合には自分自身が今後何者にもなれるがゆえに今は未だ何者でもないという無の不安。雑に述べましたが大方何かに気がつくためのきっかけとして不安が登場するようです。
実存主義へのとっかかりとしてサルトルのベストセラー「実存主義とは何か ー実存主義とはヒューマニズムであるー」が読みやすくお勧めですが、どの哲学者もそれぞれ独自の事柄を唱えているので、実存主義一般というものはないようです。
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