2010年6月14日月曜日

黒きコロッケの悩み

父が材料を買い母がそれを料理した
「あら失敗」真っ黒コロッケが誕生した
真っ黒コロッケはぼくに「まずそうだ」と言われる
真っ黒コロッケは「自分はまずそうなのか」と自問する
答えは見つからない。コロッケは不安でたまらない
真っ黒コロッケは妹に「捨てたほうがましだ」と言われる
真っ黒コロッケは「自分はいないほうがましなのか」と自問する
答えは見つからない。コロッケは不安でたまらない
真っ黒コロッケは弟に「おはぎみたいだ。はっはっはっは」と笑われる
真っ黒コロッケは「自分はそんなにこっけいなのか」と自問する
答えは見つからない。コロッケは不安でたまらない。
真っ黒コロッケは父にちらりと一瞥を向けられると、その後は無視される
真っ黒コロッケはいよいよ不安で死にそうになる
死にそうになりながらもやはり自分の姿を見たいと思う
父はコーヒーをいれ、コップに注ぐ
真っ黒コロッケはそらとばかりにのぞきこむ
だが何も見えない。コロッケはやはり不安で不安でたまらない
弟に写真を撮られる。コロッケはそらとばかり写真をのぞくが
ピンボケしていてよく分からない。
父が立ち上がり、コロッケを台所へ皿で運んだ。台所の少し濁った生臭い水にコロッケは自分の姿を見て思った。「なんてまずそうなんだろう。なんてこっけいなんだろう。」そして恥ずかしさのあまり「捨てられた方がましだ」と思った。思いは父に通じたらしく、父はコロッケをゴミ箱の上へ、まさに捨てられようとしたそのとき。
「それ捨てないで、食べるから」 母だった。「だって焦げてるよ。」
「外側は真っ黒でまずそうだけど中身は他のコロッケと同じでおいしいから」
コロッケは救われた。「たとえ見かけが悪くても僕の中身はおいしいんだ。」
母は包丁でコロッケを真っ二つにすると、中身をスプーンでほじくり口に入れた。
「・・まずっ!」
だが、そのときすでにコロッケの息は絶えていた。
これ、幸か不幸か
(2010、1月)

0 件のコメント:

コメントを投稿