2016年4月27日水曜日

マジシャン映画の傑作「プレステージ」(後半よりネタバレあり)

オススメのマジシャンもの映画、プレステージ
私の中では、マジシャンものは、プレステージがダントツでナンバーワンのマジシャン映画でした。マジシャンものといえば、単なるトリックの見抜きあいや、科学と魔術の対比に終始するものが多いのですが、それだけでなく、物語構成といい、全体としてのメッセージ性、哲学性といい、申し分ないです。あらすじ:ヒュージャックマン演じる主人公アンジャーはクリスチャンベイル演じるライバル、ボーデンと師匠のもとでマジックの修行をしていた。ある日、マジックの失敗により、ボーデンは、水槽脱出マジックの助手をしていたアンジャーの妻を死なせてしまう。以後、アンジャーはボーデンを憎み、ボーデンの単独マジックを見抜いては邪魔をしたり、同じマジックを行ったりする。邪魔や見抜気合いは互いにやりあい、エスカレートする。しかし、ボーデンが行った瞬間移動マジックのトリックが見抜けず、アンジャーは本物の瞬間移動を成し遂げるために旅に出ます。そして、ついに瞬間移動を科学で成し遂げる実験を行うニコラステラというマッドサイエンティストと出会うのですが‥。

以下、ネタバレあり
「プレステージ」とは何か

プレステージとは、マジックにおける最終段階であり、観客達が歓声をあげる瞬間である。例えば、ここに小鳥がいる。マジックでこの小鳥が消え、観客は戸惑う。そして、もう一度今度は別の場所から小鳥が現れ、観客は拍手する。この第三の段階がプレステージである。およそあらゆるマジックはプレステージへと向けて行われる。
アンジャーはこのプレステージにこだわった。瞬間移動マジックの際に、替え玉を使うと、プレステージを演るのは替え玉となる。私がやるマジックなのに、観客の歓声を浴びるのは替え玉になってしまう。私が歓声を浴びたい!そうアンジャーは思う。
もう一つは犠牲を払うことについてである。ボーデンは、大きな金魚鉢を出現させる中国人魔術師は普段から、足の間に金魚鉢を挟み、それゆえ普段から足が不自由である身体障害者を演じているのだと言う。一方、小鳥を消すマジックの際に、実際には当の小鳥は潰れて死ぬのだが。犠牲など払いたくない、小鳥が死ぬのはかわいそうだとアンジャーは思う。
第三に本物についてである。師匠はボーデンの瞬間移動マジックは単に替え玉を使っているだけだと言う。アンジャーはボーデンの瞬間移動マジックは本物だと言う。アンジャーは替え玉を使った瞬間移動マジックに失敗し、ボーデンの手帳を盗んで本物の瞬間移動をマッドサイエンティスト、ニコラステラから得たものだと情報を掴んで、彼を探しに旅に出る。アンジャーは子供騙しではない本物の超越的な力を科学に求めたのだ。
(以下よりネタバレあり)
しかし、結局のところ、ボーデンが正しかった。
アンジャーは「本物」に取り憑かれたために、大きな犠牲を払うことになる。それはニコラステラが発明した機械は瞬間移動ではなく、複製を瞬間生成するのだった。アンジャーはこの機械を使って瞬間移動を遂げるが、それではアンジャーが複製され、増えてしまう。そこで考えた残酷な結論は片方を殺すということだった。瞬間移動が行われるたびに自分は片方開かずの水槽に入れられ死ぬ。アンジャーはかつての妻の死を自分に課すことで無意識的に贖罪をも求めていた。しかし、機械によって複製されたもう片方はプレステージを得ることができるのだ。
一方、ボーデンにとって本物の瞬間移動などどうでもよい。マジックにおいて大切なのは本当に瞬間移動が行われているかどうかではなく、いかに瞬間移動が行われているかのように見せるかだけである。観客はつまらない(あるいは悲惨な)舞台裏など知りたくもないのだ。本物のマジックには本物などない。つまらない種をいかに本物に見せるかだけである。それが本物のマジックの本質なのだ。実はボーデンは2人でボーデンという人物の人生を演じることで、瞬間移動を成し遂げていた。つまりは、片方は替え玉なのである。とはいえ、両者ともども交代でボーデンを演じるために、どちらもボーデンであり、どちらもボーデンでない。ただし、そのため、ボーデンは人生を半分しか生きられないという犠牲を払わなければならなかった。その結果、ボーデンは恋愛において失敗し、破局に至っている。
プレステージ、つまり偉大なことを成し遂げるためには必ず犠牲を伴うということなのである。
余談だが、哲学においても「本物」についての議論がある。20世紀最大の哲学者ウィトゲンシュタインは、自分を含めた多くの哲学者が神や道徳などについて真なるものは何なのかを求める、つまり「本物」に取り憑かれていることを見抜いて、そうではなくて、あらゆる哲学的な問題とは言語の構造によって起きる手品のような単純なものであり、本当は哲学的な問題などそもそも存在しないという。

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